東南アジアの〝美空ひばり〟になっちゃった香港コロシアムでのコンサート
雑誌『スコラ』1984年2月23日号(No.45)に、15周年コンサートツアーの内、香港コロシアムでのコンサート(1983-84)に関する詳細な取材記事があります。後半はコンサートを終えたテレサ・テンへのインタビュー記事になっています。
セクシー・レディ・インタビュー海外編
東南アジアの〝美空ひばり〟になっちゃった
テレサ・テンあまり流行るので中国当局はテレサの歌を「精神汚染」だと、考えたのだった。
テレサ・テンを覚えているかい? 『空港』のヒットで’74年の新人賞を総ナメにし、その後偽造パスポート事件でコツ然と姿を消してしまった、台湾出身のカワイコちゃん歌手だ。そのテレサが、いま“東南アジアの美空ひばり”と呼ばれるほどの大活躍。そして、生ツバゴクンのいい女になったというウワサが流れてきた。彼女の歌い方があまりにも扇情的でポルノチックだと、中国当局が精神汚染キャンペーンでやり玉にあげたほどに……。テレサに会いたい! ムラムラと高まる気持ちを抑えきれず、われら取材班は、香港まで飛んでテレサにインタビュー。来日直前の素顔をキャッチした!
【デビュー15周年記念リサイタル。1万4000人のファンがテレサを迎えた……
あのテレサが生ツバゴクンのいい女になったという情報が、最近ひんぱんに飛びこんでくる。そのうえ、中国本土の精神汚染追放キャンペーンで、やり玉にあがってるとか(彼女の歌い方が扇情的でポルノチックだと中国当局が懸念)。
日本では『空港』のヒットで’74年の新人賞を総ナメにしたが、〝偽造パスポート事件でコツ然と姿を消してしまった台湾の美少女〟……という程度の認識しかない。だけど、彼女は去年でなんとデビュー15周年なのだ。台湾の〝美空ひばり〟と騒がれてガキの頃からのど自慢荒し。向かうところ敵なしの天才的歌手のテレサ・テン小姐も今年30歳。果たしてテレサはどんなイイ女になっているんだろうか。どうしてもテレサに会いたい……という気持ちが抑えきれずに、スコラ取材班は去年の暮れに香港でおこなわれた彼女の15周年記念リサイタルに飛んで行ってしまった。
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その日(12月29日)香港の空は珍しく晴れわたっていた。会場の香港コロシアムは総工費426億円をかけた巨大な多目的体育館。夕方の5時をすぎると、あかね色の空に浮きでたコロシアムに大群衆がどんどん吸いこまれはじめた。ロックにしろジャズにしろ、コンサートに集まる人間はだいたい着ているものから歩調までなんとなく似ているものだが、テレサの場合はてんでバラバラ。性別年齢いっさい不問の大群衆は、ちょうどニッポンの正月風景、初詣で客にそっくりだ。 午後6時半、席についてあたりを見わたすと、24メートルの高さにまでせりあがったすり鉢状のシートはすべて満席。1万4000人の大観衆である。急にカメラマンが気になってきた。アイツの広角レンズでカバーできるのかね……。
開演を告げるベルが鳴ると、シンセサイザーの音が鳴り響きオープニング。中島みゆきの『待ちわびて』のリズムにのって、テレサが舞台中央から登場した。純白のチャイナドレス。スリットからこぼれる脚線美がスポットライトに光る。
満月のようなムーンフェイスは、すっかりコケティッシュなおとなの女へと変わっていた。15年間のヒットメドレーを、広東語、北京語、日本語、英語と使い分けて歌っていく。客席からはそのたびにゴーッという歓声が沸きあがり、テレサ人気のすさまじさを思い知らされた。ハスキーで甘ったるい声で身もだえしながら歌われると、からだのシンから、〝情熱的熱潮〟があふれてくるようだ。(中国当局がポルノチックだと認定したのも無理はないな……)。 第2部はアメリカ仕込みの激しい踊りとヒットメドレーのかずかず。ラスベガスの「シーザスパレス」での成功がぐんと自信をうえつけたんだろう。あっけないエンディングで、最後は盛りあがりに欠けたが、ともかく、彼女がアジア最大のスターであることを証明するコンサートではあった。【5キロやせてプロポーションも抜群。熟女テレサが日本のファンを悩殺するぞ!
まだカラダにピリピリとテレサ・テンを感じながら、公演後の楽屋で面会が許されるのを待つ。香港側はかなり神経質になっているせいか、インタビューの申込みもそうカンタンにはいかない。待つこと数十分。ユニフォームを着たスタッフが手まねきをして呼び入れた。「O・K。バット、ショートタイム」
楽屋のドアを開けると、豹プリントのソファにメイクもそのままの彼女が座っていた。「トーキョーから来てくれたの? ホント? ニッポンの皆さんには、もうお会いできないと思ってた」
なんていじらしい発言なんだ!(オイ、日本の熟女どもよ、色気さえふりまけばいいと思ったら大マチガイだぞ)――日本を離れてからどうしてたの?
テレサ ロスに行って、1年間、UCLAで勉強してました。生物学、数学、それと映画関係のこと。
――じゃあその間は歌手活動はなし?
テレサ しなかった。15歳でデビューしてからずっと働いていたから、テイク・ア・レストしたくなったわけ。
――すっかり見違えたね。
テレサ 私、もう30歳。おとなになりました。昔は若すぎて、自分の力で何も決められなかったから……。
――30ですかァ。見えないなあ。プロポーションは前より良くなったみたい。
テレサ そうそう。5キロぐらいやせた。アメリカで半年間、ダンスの特訓やったから。マッスルが締まったのね。
よぶんな肉落ちた。でも顔まだまるーい。(写真キャプション:イイ女になったねぇ。そのキュッとしまったアンヨがなんともセクシーなのだ)
――歌手に戻ったのはいつから?
テレサ えーと。80年の秋ごろ。アメリカから台湾に戻って、それからです。こんどは中国の古い歌ととかをやってみたくなって『何日君再来』とか『梅花』なんかがそう。
――それが、中国本土でも大ヒット。でも、テレサの歌はついに禁止になってしまったわけだけど……。
テレサ カセットテープやレコードが見つかると財産没収されたりするんですよ。
――それはつらいね。たかが歌なのにさ。
テレサ そう。歌にツミないです。
キッパリといいきるテレサに、複雑な思いを感じる。たぶん、彼女はわれ
われ以上に割り切れない思いを抱いているだろう。
――ところで、テレサ。今、恋人は?
テレサ いまゼロ。またふられました。私ね。片思いとか失恋ばかりなの。どうしてでしょう。
――ほんとかなァ。それだけキレイになったところをみると、ずいぶん恋愛経験も多いと思うけど……。
テレサ 失恋経験なら多い。もう10回くらい。
――そんなにマジメにいわれると困るな。好きな男はどんなタイプ?
テレサ だれでも大丈夫です。
――な、なんなんだ、それは。太ったのとかやせたのとか、条件はないの?
テレサ ああ、ハイハイ。そうねえ。年上でメガネの似合う人がいい。
コンサート直後で疲れているにもかかわらず、彼女は終始笑顔で答えてくれた。
最後に来日について聞くと、
「ニホンの皆さんに大変迷惑かけました。私、あの頃とくらべておとなになった。新しい自分をぜひ見てほしいです。私の気持ちとして、もう1度ファンの皆さんにお会いしたいと思ってます」折りしも、アジアの歌がニューウェイブとして取り上げられている。東南アジアのスーパースターとして大輪の花を咲かせているテレサ・テンの、成熟した色気と変わらぬ歌のうまさに、再び出会えるのも、もうすぐだ。
『スコラ』1984年2月23日号
すっかり精神汚染のすすんだ取材班は、いまや彼女のテープなしに、孤独な夜を過ごせなくなってしまっているのであった。