二度目のチャンス、つかまって、がんばりたい
Look
テレサ・テン
今アジアに輝いて
「歌迷」と書いてコーミー。ファンのことだそうだ。その歌迷の熱烈な支持で、いまテレサは、東南アジアのスーパースターだという。
近ごろ、テレサ神話をいくつも聞いた。――どこへ行っても人気爆発、〝未開の地〟は韓国、日本のみとなった。アメリカはラスベガスでも大成功。中国は精神汚染追放運動でテレサの歌を全面禁止。歌手生活十五年で、レコード売り上げは三千万枚を突破。
ついに十億人の心をつかんだ。
そんなスーパースター物語が広まったところで本人が来日した。日本でのデビューは十年前、偽造旅券問題で国外退去となったのが五年前、こんどは新曲『つぐない』のキャンペーンである。
――五年前とくらべて一番変わったのは何?
「このまえは、私、日本の一部になろうとしてた。こんどは東南アジア代表して、外国人として日本に来た」
――でも『つぐない』は失恋の歌?
「はい。私も、何回か。恋も失恋も。女として、これ、ノーマルのことでしょ。結婚も思った。けど、私の国、奥さんになったら歌やめるの常識。歌やめるの、さびしい。だから、なかなかできない」
三十一歳の素顔が見え始めたかな、と思った途端、口調が変わった。
「日本でも(いい仕事を)したい。一回チャンスあったけど、中途半端だった。絶対、是非、二度目のチャンス、つかまって、がんばりたい」
舞台の顔に戻っていた。
滞在は一週間。どれほどの人を歌迷にとり込めた?文 今吉賢一郎
写真 荒牧万佐行1984年3月2日 毎日新聞(夕刊)