漢詩、特に唐の詩が好きなんです『ダ・ヴィンチ』 1994年7月号

中国の作品以外なら、欧米の
映画の原作本も好きです

 ところで彼女に、それだけ多くの本を読んでいれば、中には理想の男性も登場してきたのではと聞いてみた。
「ええ、いましたね(笑)。ただし、中国の本じゃないですけど。映画にもなった『THE MAN WITHOUT A FACE』。これは交通事故で顔にひどい傷を負った先生と、先生が隠遁生活を送っている田舎に遊びにきた少年との、心の触れ合いを描いているんですけど、この先生のような内面を持った男性が理想ですね。すごく愛情が深いっていうか。自分のことよりも、相手の気持ちを優先させて考えられる、本当の優しさを持った人なんです」
 今年の正月、メル・ギブソン監督・主演作品『顔のない天使』として上映され、大ヒットした感動作だ。
 彼女が読む本には、映画化される作品も多い。
「『ANGEL AT MY TABLE』もよかったですよ。ジャネット・フィルっていう有名な詩人の、少女時代から詩人として成功するまでを描いた自伝なんですけど、子供のころ、自閉症気味だったことから精神病院に入れられたり、大学時代にもまた精神病院に入れられて、200回も電気ショックに掛けられたり、ロボトミー手術までされそうになるの。想像を絶する経験をしているんです。
 ここまで辛い目にあっている人もいるのかって、つくづく自分の幸せに感謝しました」
 やはり欧米作品でも、女性の半生を描いたものが好きなようだ。

中国大陸すべての国が
民主化されてほしい

 今、テレサ・テンさんは、香港とフランスが主な生活の拠点になっているそこから、台湾、シンガポール、マレーシア、日本などのアジアの国々やアメリカなど、世界を舞台に活躍する。彼女が実際に見てきた世界の国々、とりわけアジアはどう映っているのだろう。今、中国は世界で最も熱い地といわれているが……。
「中国はまだまだ遅れていると思うしはっきりいって失望しています。あの天安門事件のときには、許せない気持ちでいっぱいでした。アジアには、まだまだ、政府が強い権力をもっている国が多いのです。例えば、先日のシンガポールのムチ打ち事件。体罰を与えるなど罰則で人々を縛りつけるなんて。だからみんな罰が怖くて町にゴミひとつ捨てなかったりする。でも、街をきれいにするのは、本来、もっと自発的にやるべきことですよね。やり方が少し違うと思います」
 大きな視野で、世界的観点からアジアを見る彼女の目は厳しい。
「香港にしても、97年の中国返還を目前に控えて、とても揺れています。5月1日から中国銀行が香港で紙幣を発行し始めたんですけど、返還前なのに時期尚早では、という声も多くて。台湾は、以前より少しよくなってきていますけど、まだまだですね。その点、日本はアジアの中で最も民主的な国。とても安全だし、いい国だと思います。大好きです。あ、お世辞じゃないですよ(笑)」
 流暢な英語の中に、母国語の北京語と、日本語の単語がまじる。アジアの民主化について語るとき、身を乗り出すようにしてとうとうと話す。
「中国大陸の全部の国が、民主主義になってほしいんです。そして、天災は避けられないかもしれないけど、人災が招く天災は何があっても避けるべきです」
 本を通して、時代の変遷を熟知している彼女だからこそ、いかに平和が大切で、自然が美しいものかをよく分かっている。
 そんな彼女が今、意欲を燃やしているのはレコーディング。
「パリで、ジャマイカで、現地のミュージシャンとセッションして、シャンソンからレゲエまで、幅広く歌っていきたいんです」
 日本では彼女の歌というと演歌のイメージがある。でも実は、テレサ・テンは、ジャンルを超えて歌うアーチスト。アジアの歌姫だ。
 彼女が教えてくれた、中国にふれる10冊は、平和の尊さや平等ということについての、彼女からのメッセージでもある。

てれさてん(鄧麗君)/歌手
1953年1月29日、台湾生まれ。
10歳のときに台湾テレビの素人のど自慢で優勝し、
13歳で台湾テレビ専属歌手に。
21歳のとき、『今夜かしら明日かしら』で日本デビュー。
同年、『空港』が大ヒット。各種新人賞を総ナメに。
今年は日本デビュー20周年に当たり、
『別れの予感』で大ヒットをねらう。秋には来日予定。
また中国語名唱選シリーズと銘打って、
アジアでの代表曲を年代順にまとめて発売中
(現在は1~6で、今後も順次リリース予定)。
日本語の最新アルバムは
新曲2曲を収録した『テレサ・テン全曲集』(6月29日発売)。