謝宏中「淡淡幽情中的激情~淡々とした心に潜む激しい情熱」

アルバム『淡淡幽情』(日本向け)のライナーノートの、謝宏中氏の文章の日本語訳です。
中村とうよう「テレサ畢生の力作、そして問題作」と共に掲載されています。

淡淡幽情中的激情~淡々とした心に潜む激しい情熱
謝宏中

激情の触発
 三年前のある秋の晩のこと、私は書斎で「林花謝して春の紅あまりに勿々たり」という李後主の詞を書写していた。すると牛莉女史がやってきて、なにげなく手に取ると朗読し始めた。深く心に響く感情の高まりと、心地よい音楽的リズムが絶妙に調和してうっとりとした気分になった。もしこの「詞」を現代風の音楽に合わせて唱う形式で表現できるならさぞ素晴らしいに違いない! 私はこのインスピレーションを即座に書き留めた。同じ李後主の「烏夜啼」という詞に曲をつけ、私のヘビーな南の発音で唱い、彼女が朗読し、録音もしてみたら、おや?果たして俗っぽくなくていい感じだ。

激情の嘆き
 唐や宋の時代の詩、詞に曲をつけるという考えは、かつて音楽界の友人数名に売り込んだことがあった。自分で曲をつけて唱った「烏夜啼」も、何回唱ったか分からないほどだが、反応はさほどではなかった。まさか理想主義者の白昼夢にすぎなかったのでもあるまいが…。激励してくれたのは林楓・牛莉夫妻だけだった。私は暇を見ては美しい、内情的な詞数十首に曲をつけ、詞集にまとめそれに「淡淡幽情」と名付けた。これをレコードにすることを音楽関係者に一年かけて吹聴し続けたが、残念ながら虚しい結果に終わり、嘆きのみが残った。

激情の共鳴
 二年前のある晩、宴席でテレサ・テンと出会い、期せずして私の長いこと温めていた構想を彼女に話したところ、反応は熱烈であった。間もなくシンガポールでポリグラムの責任者鄭東漢氏にもこのアイディアを伝えたが、こちらの反応も相当熱っぽく、しかもすぐに行動に移すことになったのである。
 秋の花が姿を消そうという季節になり、香港のレパルスベイ・ホテルのテラスで、テレサ・テン、鄭東漠氏、レコーディングプロデューサーの鄧錫泉氏と私の四人は「淡淡幽情」制作について話し合った。議論の中心は、いかに突破口をみつけ、わが国に数千年間伝わってきた古い詞を現代風の音楽でいかに表現するか、いかにリスナーの心を惹きつけるか、忘れ去られようとしている中国の文化をいかに保存していくのか……ということだったが、これら一連の「いかに」は四人の心をしっかりと結びつけ、意気昂揚させた。その時、私はまたもや激情の中にいた!
 辺りを見渡してみて、彼女以外誰に今の歌謡界を代表できるだろうか? 誰が彼女以上に「淡淡幽情」をうまく表現できるだろうか? 誰でもない、と確信した。そう思うと私の夢はもはや個人のものではなくなって、共鳴する人たちの声がますます大きく響いてきたのがひしひしと感じられた。

激情の延長・継続、芸術の突破
 このアルバムの中で、テレサ・テンは彼女の持つ天性の「淡淡幽情」によって、名家の作になる十二首の詞を唱いあげた。これはひとつの突破である。また、世界的に有名な中国画家の単柘欽先生に特別にお願いして、十二首の詞でうたわれている境地を水墨画で表現していただいた。これもひとつの突破である。我々はその十二作品を特製ブックレットとしてリスナーの皆様にお届けするが、このブックレットには林楓先生が現代語による詞の解釈と、作者の背景についての簡単な解説を付してくれた。その他、著名な写真家である林偉先生もテレサ・テンを撮影し、詞の感情と現代の風光とを巧みに織りませたのも芸術的突破であった。
 リスナーの皆様にも、「淡淡幽情」を鑑賞する時には是非、激情の渦に浸りきっていただきたい。

                一九八二年秋
      (このページは表4の日本語訳です。)

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Posted by teresateng